「熊野焙煎工房」焙煎士の山本賢治さん
熊野町で珈琲焙煎専門店「熊野焙煎工房」を営む 山本賢治さんに焙煎士のお仕事や熊野での暮らしについてお聞きしました。
・今日はコーヒーのことを中心にお聞きしたいのですが、はじめに山本さんのご出身は熊野町でしょうか。
いや、僕は長崎なんです。うちの奥さんが熊野町で。僕は大学から広島に来たので、そこから就職してずっと広島ですね。 31年間中学校の英語教員をしてました。
・そうだったんですね。長く勤められてから、今のお仕事を始めたのはいつ頃になるんでしょうか。また、コーヒーの専門店はどういう経緯でやろうと思ったんですか?
スタートはだいたい5年前です。その1年前にうちの奥さんの元上司が仕事を退職して喫茶を開くことになりました。その際にお店で出すコーヒーを選んでほしいという話になって。当時は美味しい豆を探して自分で淹れて飲むっていうのはやってたけれど、そのレベルでした。うちの奥さんがちょっと話を盛って「主人はコーヒー通ですよ」と。
・なるほど笑
それで、お店で使うブレンド選びをすることになり、この豆の組み合わせよりはこれ、それよりこれがいいと絞っていって決めたんです。それが縁で、僕が翌年退職するとわかったもんだから、仕事を辞めるんなら焙煎もやってくれと。そうすればうちの自家焙煎として売れるからと言われまして。それは面白そうだからやってみようかと、流れに乗って始めました。
・それでご自宅の横にこんな立派な工房を建てられたんですか?
ここはうちの奥さんのお父さんとお母さんがハケ作りの工房として建てたんです。子ども達が学校から帰ったとき『鍵っ子』にならないようと。その後使ってなかったので、珈琲の焙煎に丁度いいね!と使ってます。
・素晴らしい空間になってますね!工房の中はコーヒーのとてもいい香りがします
そうですね。いくつか飲み比べてみてください。味や香りも全然違うと思います。
・ほんとですね!苦味のあるものや柑橘系など味が全然違います。
ほんのちょっと焙煎度が違うだけでも変わります。
・工房内にある機械もすごいですね。初めて見ました!これは生の豆ですか?
はい。コーヒーの生豆もお米と同じで色々な形や種類があるんです。普通はこの豆(種子)が2つ1組になってさくらんぼのような実の中に入ってるんです。その実と皮を外した種を取り出してほどよく乾燥した物がコーヒーの生豆です。生豆として精製する方法は大きく3通りぐらいあるんですけど、産地やそこの気候とか環境によります。山水がたっぷり流れてるようなところでは、先に果肉を落として洗って干す。水資源が少ないところは実がついたまま干してドライチェリーみたいにしてから脱穀するとか。実がついたまま干したら、その実が発酵して香りがつくのでより香りが強烈。色んな風味が残ります。先に脱穀して洗って干すとすっきりした味になります。
・生豆の種類もたくさんあると思いますが、選び方はどうされているんですか?
そうですね。自分で色々と試して、これがいいと残していった感じですね。アフリカだとエチオピアとかルワンダ、ケニアなどがあります。赤道から南北20~25度ぐらいの間でできるだけ高地が栽培の理想の条件です。
・アフリカやブラジルなどはよく聞きますが、アジアの豆もあるんですね。
そうですね。ベトナムなんかは生産量は多いですがちょっと癖があります。だから現地の人は練乳を入れて飲むんです。インドネシアとかも美味しい豆があります。中南米なんかでもちょっと条件が違ったり土壌が違ったりするだけで味も香りも全く違いますよ。
・普通に市販で売ってるような商品はどこの豆になるんですか?
1番多いのはブラジルですね。1000メートル以下の広大な土地で大量に生産しているものです。 熱帯雨林に近いエリアで低い土地の場合、何もしなかったらカビたり腐ったりしやすいので、日本に輸送してくるまでにかなりの防カビ剤や防腐剤を使っています。だから低地の大量生産のコーヒー豆は安いけれど雑味があったりします。
・今のお仕事をされてから大変だったことなどはありますか?
それがね、あんまりないです。大変なのは売り上げがなかなか伸びないぐらい。
・なるほど笑。それでは逆にお仕事で、面白いとか楽しいと思ったことは何かありますか。
色々ありますが、まず焙煎や淹れ方など、ちょっとしたことで味が変わるのは面白いですよね。
・こちらのお店は住宅地の中にあるので、普段購入されるお客さんは周りに住んでる方たちなのでしょうか。
そうですね。近隣の方は割と多いです。定期的にお店に納めたり、飲食可能な店舗を一時開いていた時のお客さんの繋がりで郵送による販売もしています。
・通販もされているんですね!
安心、安全、美味なスペシャルティーコーヒーをどんどん広められたらいいなと思ってます。
・原料の生豆は東京の会社から仕入れているとお聞きしましたが、それはなぜでしょうか。
はい。生豆はいい物を選びたいのですが、そのためにはほとんど防カビ剤や防腐剤も使わないでちゃんと輸送や保管する必要があります。今利用している東京の商社さん2社は、1年中14℃前後にきちんと温度管理された倉庫で水分量も一定に保てるように保管されてるんですよ。残留農薬とかも第三者機関でちゃんと計測してもらって問題ないこともはっきりしてる業者なんで安心です。
・生豆のお値段は高かったりするんですか。
例えばコンテストで5年連続ナンバーワンみたいなものは0の数が1つ2つ違います。 一番有名なのがパナマのエスメラルダ農園というのがあるんですけど、ここで作ってる生豆は大きなコンテストでも10年間ナンバーワンみたいな評価を受けてるんです。需要と供給のバランスで、それこそ生豆の状態で1キロ数万円とかです。だから、もう本当に1杯2000円とか3000円で出すような豆ですよね。そんなのはよっぽど特別な1年に1回のスペシャルな1杯ぐらいにしか使えないので、うちは焙煎して100グラム680円から高くても1200円ぐらいで売れるようなリーズナブルな価格帯のものを選んでいます。
・お仕事以外で趣味や取り組んでいることとかありますか。
今の仕事が趣味みたいなものですからね…。
あとは、コーヒーに関するチラシやパッケージなども全部手作りでやってます。
・デザインなどもお1人でやられてるんですか。
はい。 そこにある普通の個人用のパソコンとプリンターで作ってます。
・すごいですね!デザインも焙煎もお一人でされているということですが、コーヒー焙煎を始めるにあたり、初期費用はかなりかかりましたか?
もし僕の店と同じ量を焙煎できる有名メーカーの焙煎機を買ったら普通車1台買えます。うちのは中古の軽自動車ぐらいです。
・ええ、そんなにするんですか!?結構勇気がいりますね。
うちの焙煎機はすごいシンプルです。大阪でスペシャルティーコーヒーの煎りたてを広めたいと頑張ってらっしゃるコーヒー屋さんがあって、元自衛官で工学部出身みたいな人なんですけど、本当においしいスペシャルティーコーヒーの新鮮な豆を日本中にもっと広めたいと講座を開いたり焙煎の技術を教えていたんですが、それだけではそんなに広がらないので自分で機械を作ってしまったんです。町工場とタイアップして、自分が本当に使いやすい安価でシンプルな機械を作って日本中に売り出したんです。熱源も普通のパロマの一口ガスコンロを使っています。 有名なメーカーだったらコンピューター制御とか付いていたり、メンテナンスの費用だけでもかなり高いです。でもこの機械だったら、部品もホームセンターで買えるようなものを使ってるので、例えば焙煎時に出るチャフ(豆がはじけた皮)が溜まる部分は梅酒をつける4リットルの瓶です。
・熊野焙煎工房ではブレンドコーヒーは販売されているんですか?
以前は4種類の豆を微妙なバランスで中煎りと中深を混ぜるオリジナルブレンドとか作ってましたが、今はブレンドは一切してません。豆本来の個性をストレートにそのまま出しています。
・山本さんが1番好きな豆はありますか。
時間帯や体調、気分次第でそのときのお気に入りは変わりますが、パプアニューギニアの豆は面白いと思います。これにはまって定期的に400g買われる方もご近所にいらっしゃいますよ。
・パプアニューギニアは見たことないですね!
個人的にノンカフェインのコーヒー買ったりもするのですが、カフェインを抜く作業はどうされるんですか?
生豆からカフェインを抜く方法も3通りぐらいあって、昔は薬品で一気に抜いたみたいですよ。でもその薬品臭さも残るので、今の一番安心な方法は一旦水出しして水からカフェインを抜いてその水を戻すというウォータープルーフという方法です。 うちが扱っている豆は最近流行りの液体二酸化炭素を使う方法です。ドライアイスは固体から一気に気体になりますよね。ものすごい圧をかけてその中間を作るんです。液体二酸化炭素は圧を下げたらすっと気体となって抜けちゃうから何の悪さもしない。それでカフェインを抜くんです。ウォータープルーフか液体二酸化炭素によるデカフェだったら、元々の豆が持ってる香りや味をかなり残してくれます。
・熊野町のこともお聞きしたいのですが、熊野の魅力や好きなところはありますか。
なんと言っても広くてのびのびしてますよね。だから子育てにはとてもいいです。 最初は妻と結婚することになって熊野に来たから地域のことをよく知らなかったのですが、実際来てみたらすごく良かったですよ。
・最後に、熊野町に来る人におすすめのスポットとかってありますか。
古い神社とかですね。
長い歴史を持っている神社も多いし、三石山(みついわやま)などの遊歩道を 散策したりするのもいいですよね。
保育所や小中学校の園庭や校庭、公園や町民グラウンドなども広くていいですね。のびのび走り回ったり、スポーツさせたりできるので子育てにはとてもいい所です。
・本日は長い時間取材させていただきありがとうございました。
熊野焙煎工房は、注文を受けてから焙煎をする珈琲焙煎専門店です。 山本さんが作るスペシャルティコーヒーは、下記のHPから注文できますのでぜひ色々な種類のコーヒーをお試しください!
珈琲焙煎専門店「熊野焙煎工房」
【住所】〒731-4223 広島県安芸郡熊野町川角5-6-33
【営業時間】16:00〜18:30
【定休日】不定休 ※土日はイベント等に出ていることがありますが連絡いただければ対応可能です。 【連絡先】090-9736-6268
https://www.instagram.com/kumano_tsunagu.p/
「熊野町つなぐプロジェクト」
広島市立大学「2023年度いちだい地域共創プロジェクト」採択事業
広島市立大学の学生や地域の方と一緒に、熊野に暮らす「人」や熊野で活躍する「人」にスポットを当て、その「人」の想いや取り組んでいることを通じて、地域の魅力を伝える情報発信を行っています。
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