「広熊ジビエ専門店」を営む猟師の栗田比佐実さん
熊野町で約50年に渡り猟師をされてきた栗田さん。広島都市圏では珍しいジビエを専門とする加工・販売店「広熊ジビエ専門店」を営まれています。栗田さんにお店のことや猟師のお仕事について伺いました。
・まず始めに、栗田さんのご出身は熊野町ですか。
ええ、そうです。生まれも育ちも。
・普段のお仕事はどんなことをされていますか。
猟師をしながら「広熊ジビエ」という専門店をしています。今は豚コレラが5月に出てから、イノシシは除外して、鹿ばかり捕獲してます。
・ジビエ専門店っていうことなんですが、ジビエの範囲はあるんでしょうか。
野生動物全般ですが、その中でもイノシシや鹿なんかの需要のあるものですね。
・イノシシや鹿を捕獲する地域は熊野町内なんですか。
熊野町だけじゃなく、この近郊の海田町や瀬野町、阿戸町なんかも行きます。
イノシシはふるさと納税で出していますが、今はちょっと出していないんです。豚コレラと言って、イノシシの病気「豚熱」がね、最近流行ってるんです。
・ええ、そうなんですか!?
豚コレラ言うのはね、どんな症状かと言うと、かかったら1日ぐらいで45度ぐらい上がるから脾臓が弱ってそれから1日大体持たない感染症なんです。熊野も何件か出たんでイノシシの肉を販売できないんですが、逆にええことは、イノシシが減って農家の人の被害が少なくなったことです。
・なるほど。悪いことばっかりじゃなくて、いいこともあるんですね!
そうそう。それと、やっぱり私ら人間でもそうですが、今のコロナウイルスね。あれなんかでもかからん人は絶対かからんでしょ。何パーセントか言うのはわからんにしても確かに強い人はおって、絶滅することは絶対ない。だからイノシシも豚コレラが流行っても概算で3割は残るじゃろうと思うよ。山にイノシシが500おっても3割残ったら、山の上で過ごすだけで自分の空腹を満たせるから農家の被害は減る。わざわざ危険を犯してまで下に出てこんでも、栗とか今時期は美味しいものがいっぱいあるからそれを食べれるわけ。
・狩猟される時の方法はどうされているんですか。
それは檻もあるし、くくりもあるし、銃もあるしね。銃でも特殊な獲り方をします。例えば、うちの猟犬はイノシシが寝てるところへ行って吠えるんですが、私が行くまでは、あー見つけたのいうぐらいの吠え方をします。それで私が近づいて顔見たら、今度は激しく吠えるんです。それでイノシシがばっと飛び出たところを撃つので肉が焼けないんです。だから味が全然違う。
・獲り方で味が変わるんですね。
檻にしてもくくりにしてもどうやったら暴れないで捕獲できるか。要するに10暴れるもんじゃったら、2、3で暴れるのを抑えたら、その7割が味に出てくる。
それをわからんで、猟師の中でもみんなすぐにどうかどうかって見に行くんやね。行くなって言うのよね。暴れるんじゃけ。そりゃそうじゃわね。わしが檻入ってたら逃げて暴れるよね。だから私らが行くんでも、そっーと行ってぽかっと寝ちょるイノシシが何しに来たんかいって起きて見てくるわね。それで、こっちがじーっとしちゃったら、向こうもじっとしてるから、ちっとずつ近づいて捕まえる。
じゃけど、それは口で言うてもね。実際問題それできるか言うたらね、できる人は少ない。
・経験値ということなんですね。
やっぱりまあ経験よね。教えてもちょっと難しいとこがある。血抜きなんかも同じようにやってもね、しっかり血を抜いたもんは美味しいですわ。血が残れば残るだけ臭みも出るし、美味しくない。それをどうやって抜くかがあるんです。それは口で言うてもね。
・栗田さんは、ジビエのお店はもう何十年もされてるんでしょうか。
平成29年からです。29年に始めた動機がね、当時役場に猟友会として、こういうことをやって、若い人を育てたらどうじゃろうかって言ったらね、そりゃあええことよって言うてたんです。それで3ヶ月経ったけね、どこまで話が進んでるかと思って役場へ行ったら全然進んでない。まあそれ聞いてちょっと考えてね。何かしとかにゃ次の人(世代)のためにもと思ってやったのが間違いのもとや笑。
それはねやねこいですよ。もう365日ね、休みいう休みがねほとんどないです。自分の時間が。よそから罠にかかったから来てくれ言うたら行くじゃないですか。そういうことが常に頭にあるけ自由に今日休みじゃっていうわけにはいかん。
・そうなんですか。それは大変ですね。
そうです。じゃけこれがさっき言ったような、豚コレラがあって今年みたいに被害が少ない時はいいんですが、また当然出てきますからね。3割残ったイノシシが、またわーっと増えてくるんですが、増える速度はひどいけんね。イノシシいうのは、山の中に餌がなかったら子供を増やさんわけです。なんでか言ったらね、自分の食い分が無くなるでしょ。んで、どうしてもね、子を殺すんです、親が。
熊野町はイノシシの子供が6匹も7匹もいて多いんです。なんで多いか言うたら猟師が餌をやりすぎなんです。本人は獲ろう思うて、おびき寄せるためにどんどん、どんどん餌をやる。それが10回食われて1匹獲れりゃええんですが、20回ぐらいやって初めて1匹獲ったとかってやるもんじゃけここへ来れば餌があるもんじゃ思うて子供をこさす。
だから檻の中に子供が入ったら1匹でもええけん、早めに放しちゃってくれいうことです。親が乳をやる間は発情がこんのです。もし檻に6匹入って、6匹全部獲って殺してしもうたら、そのメスは間違いなしに3週間後には発情がくるんです。それから発情がしっかりきたらまた子供ができるんで痩せるんよね。親が一気に痩せてく。
・発情させないように捕獲するんですね。
でも普通の猟師は役場の報奨金目当てでやったりね。私はいつも役場に言うとるんです。餌やるのはええって。被害が出たら、そこのところだけ餌をやってくれと。よそまでやることないじゃろうって。それをやっぱり言うてもね。納得はしてもらうが強制すると今度はやるもんがおらんくなる。
・お仕事に関して面白いとか楽しいこととかはありますか。
絶対ない。苦痛なばっかり。
どしてか言うたら、イノシシなんか獲るでしょ。獲った品物が美味しいと思ってもらうために獲るわけです私らがやることはね。だが、それがどうじゃろうかの言うとこはある。必ず毎回毎回状態が同じじゃない。これどうかないうように味見してみたり、いろんなことをやる。こうやったらなんとかなるかないうのをやっぱり考えにゃいけん。じゃけ楽しみとかね、ああいうのは一切ない。苦しみだけ。
・楽しいことがない、大変なことばかりとっておっしゃってますが、それでも続けるのはどうしてですか。
やっぱりね、どういったらいいかね、同じ命をもろったものを大事にする方がええじゃない。要するに1人でも美味しく食べてもらった方がええし、そのためにやりよる。別に私らね金儲けしよう思ってもできへん。金儲けしよう思うたらそんな甘いもんじゃない。ただね今、鹿を本格的にやりだして困ったのがね、お店で売れるような部位は少ないんですわ。ローストやモモしかない。あと腕とかバラとか言うんは全然売れるとこがない。かわいそうなの思うて、今ちょっと鹿ジャーキーをやり出した。犬のおやつ。喜んでもらえるような商いをしようって。まあ、商いにはならんのよ笑。わしが来たらね、いろんなにこれ食べんさい、これ食べんさい、言うて食べさせるから笑。
・ジビエを活用したペットフードはいいですね!
店の隣が空いたから今言うようなペットフードを本格的にやってみようかないうのはある。今、若い子でね、1人教えてくれ言う人が来てからね。まあ、それで、どうするかわからんが、本人がしたいって。したいいうのとできるのとは違うけんね。そりゃね、やっぱり難しい仕事ではある。生きたものをね、可哀そうなんよ。でもやっぱり殺すのは全部自分で殺さんと状態がわからんのよね。
食肉加工場なんかでやると専門家がやるじゃないですか。じゃあ、これ一般のもの言うたら素人がやるじゃないですか。素人がやるとバラつきがものすごくある。片方はちょろっと血が出た出た言う。で、片方はドバっと出た言う。そこの基準が曖昧なんです。それが全部味に反映してくるわけ。そしたら美味しくないですよね。いっぺん美味しくないもんやったら2度とね、いらんてなる。
・難しいですね。
それでね、牛は牛の匂いがするじゃないですか。豚は豚の、鳥は鳥の匂いがする。イノシシはイノシシの匂いがする。で、鹿も同じ匂いがする。それが血抜きによってものすごい味が変わってくる。じゃけ血をええがに抜くと初めての人にジビエ肉を食べさせたら、これは何の肉かいと思う。そのぐらい変わってくる。血をしっかり抜いたら、いつまでも新鮮な状態で味がええ。そこらまあ冷蔵庫どっか開けてもらって見てみんさいね。
・すごいたくさんありますね。見た目もすごい綺麗です。普段からお1人で捌いているんですか。
うちのお母ちゃんにちょっと包装を手伝ってもらったり。基本は1人。
・もしよかったらお店の中を見させていただいてもよろしいでしょうか。
ええよ。これは真空パックの機械でね。奥の方の部屋は現場で血抜きをしてからここに連れてくんです。
・栗田さんのお店の商品を購入する場合はお電話でしょうか。
そうそう。普通に電話で注文できる。
・美味しい食べ方はあるんですか。
イノシシは牡丹鍋だね。
鹿肉はね、プロの料理人らに聞くんやね。どうやって焼くんかて。そしたらやっぱり常温に戻したやつを塊で両面しっかり焼いて、その焼いた分の時間だけをアルミホイルでくるんで寝かせる。そしたら中のジューシーさが残って柔らかくて美味しい。
・美味しそうですね!
これはあの鹿のねバラ肉。この時期だけしか獲れん。もう大体終わりだけどね。脂がある。
・今、熊野町では猟友会の人数は結構いらっしゃるんですか。
いやいや、もう鉄砲なんかおってない。今、5、6人かな。それでも一時期より多くなった。昔、私がやりよるころはね30何人か40人ぐらいおった。50年ほど前。
・そんなに多くの猟師さんがいたんですね。
今72歳じゃけね。獲るんは獲れてもね。引っ張り出さにゃいけんでしょ。大体私らが引っ張るのが、山の中で80キロぐらいまで引っ張りよったけんね。100メーターも200メーターもバカみたいに連れて帰りよったんだけど、もう今はね引っ張る元気がない。行くときにね、元気なもんがおったら連れてく。
引っ張り方もあるんですよ。普通に引っ張ったらとてもじゃないがね、60キロ、50キロでも引っ張れんです。引っ張り方があって浮かして引っ張りだしたら100キロぐらいまで行くやろ。ほじゃけさっき言うたよな、楽しいことはない。ただ、趣味の時はね、人数多いいけんね。獲れたらみんながわーって来てくれて引っ張ってくるけ楽なんよ。でも仕事はどうしても1人で行くようになる。1人で行くと犬がいるようなる。
・お話を聞いてると、猟師のお仕事はほんとに大変なことばかりですが、やりたいという若い方がいらっしゃるのは嬉しいですね。
ええ。ただ儲かる仕事じゃないんで、若い人がこれをやっぱり続けていくには、町から鳥獣被害対策としてもらうだけじゃ足らんから、ガソリン代にしてもね。だけ、こういうジビエ専門の店をしたらどうじゃろうかいので始めたんです。
・今日はお忙しい中お時間取っていただきありがとうございました。
全国的に問題となっている害獣被害ですが、熊野町もイノシシや鹿の被害が多い地域です。猟師というお仕事も将来的には担い手がいなくなってしまう可能性が高く、栗田さんにお話しを伺って、お仕事の大変さを知るとともに、地域で後継者を育てていく必要があると感じました。
熊野町は「熊野筆」が全国的に有名ですが、熊野町役場では筆以外のものもアピールしようと栗田さんにご協力いただき、イノシシのお肉が熊野町のふるさと納税返礼品になっています。取材時の10月頃は、熊野町内でイノシシの感染症が流行り数が減ってしまったことから、販売休止中でしたが、栗田さんのお店ではイノシシ以外にも鹿肉を販売されています。ご注文される方は以下のHPを参考に直接お電話でご注文ください!
・広熊ジビエ専門店
TEL:090-7120-9507
住所:安芸郡熊野町貴船18-9
HP: https://marukuma.net/143/
「熊野町つなぐプロジェクト」
広島市立大学「2023年度いちだい地域共創プロジェクト」採択事業
広島市立大学の学生や地域の方と一緒に、熊野に暮らす「人」や熊野で活躍する「人」にスポットを当て、その「人」の想いや取り組んでいることを通じて、地域の魅力を伝える情報発信を行っています。
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