實森誠実堂 實森将城さん
熊野筆の伝統工芸士である實森将城さん。
仕事場の「實森誠実堂」を訪れ、お仕事のことや「筆とアート」を発信するギャラリーなどについてお話を伺いました。
・こちらの仕事場は中だけでなく外も綺麗にされていますね。
やっぱりね、木があると葉っぱとかも落ちますし、家の前の通りも人が通るんで、綺麗な方が雰囲気がいいですよね。ある程度綺麗にしておくと、みんなも気を遣ってくれる。
・實森さんは熊野町のご出身ですか?
はい。
・お仕事として熊野筆を作られていますが、きっかけは?
もう、なんていうか、代々やってたことがきっかけですよね。
・代々続く家業ということですが、ご自身の代で1番アピールしたいことや、何か考えていることはありますか?
自分の代でやりたいことと言えば、まあ、色々あるんですけど、今本当に筆作りの後継者が不足しているので、後継者を育てないといけないっていうのもありますし、自分自身をブランド化していきたいっていうのもありますね。筆で個展を開いてみたりとか、海外に筆を発信していきたいっていうことですね。ここに飾ってますけど、 書くための筆だけでなく、インテリアの筆としてもやっていければと思っています。
・こちらの空間は綺麗にリノベーションされていますが、仕事場なのでしょうか。
そうですね。元々、事務所にするつもりでしたが、自分が作っている作品や展覧会に出したものをここの空間に並べたら面白いかなと。それと、若い子たちが「書」の個展をするスペースにもなればと思いギャラリースペースを作りました。
・これからギャラリーを運営されていくんですか?
そうですね。若い人が個展するとなると結構敷居が高かったり、なかなか難しいですから。ギャラリーとして若い人の発表の場だったり、アートの発信の場になってくれればいいなと思っています。
・いいですね。こんな素敵な空間で個展を開けたら。
スペース的に小さな個展になるかもしれないですけどね。発表して欲しい人も若い人で、どちらかと言えば、学生が集まるような場所を作りたいというのは最初に考えていました。字も書けるスペースとか、そういうのも作っていけたら。ここで芸術家の卵みたいなアート活動をしている子、書ばかりじゃなくて、絵とかでも、陶芸でもなんでも、そういう色々な分野の人が集まれるような場所にできたらと思っています。
もちろん、いい作家さんに来てもらって個展を開いてもらうのもいいんですけど、出来上がった人たちとやるんじゃなくて、これからの人たちが集まれるような、そういう交流の場がね、できるといいなっていうのを昔から考えていました。
・こちらの建物はご実家になるんでしょうか。
元々祖父母の家ですが、先祖がここの作業場を作ってから僕で4代目になりますね。作業場というか、仕事場です。なので仕事が終わったら家に帰ります。
・筆作りのお仕事についてお聞きしたいのですが、どういう時間配分になっているのか気になります。1日の流れを教えてください。
僕自身は、もう仕事があればずっとやってますね。時間があればやってます。別に休みを決めてるわけでもなく、だから時間もバラバラで。ただ、始まりは大体決まっています。僕のいつもの生活スタイルで言ったら、朝6時に起きてご飯食べたら、6時半ぐらいから家の上の方を散歩します。ずっと座り仕事で、どうしても足に負担がかかるんで、 少し散歩もしながら。それが終わったら7時前ぐらいには仕事場に来て掃除を全部して、作業場でコーヒー飲みながら、メールチェックをしたり。8時ぐらいから仕事に入る形ですね。うちの職人(後継者)さんが来るのが、大体9時ぐらいですけど、それから色々指示をして、大体17時ぐらいで終わるんですよ。僕もご飯食べに一回帰って、その後、またこっちへ戻ってきて1人が仕事をします。最近はちょっと年を取ったんで、大体24時ぐらいには仕事をやめて帰って1時過ぎに寝るような生活ですね。
・かなりハードワークですね。
あまり長い時間仕事も大変だしと思いながら、帰ろうと思うんですけど、なかなかね。やっぱり終わらなかったり、次の日の段取りをしたりとかがありますね。昼間は結構色々な人たちと商談があったりするので、その時間に仕事ができてなかったりすることも多いんですよ。だから、やっぱりどうしても夜に仕事をすることになってくるというか。
夜だったらね、実際誰も来ないので。
・熊野筆の制作に関して職人さんのお話が出ましたが、分業されているんでしょうか。
いや、うちはね、もう一応全部教えるんですよ。分業が楽でいいんですけどね。だけど分業にしてしまうと1人が欠けた時にそこの職人さんがいなくなるんで、さっき言ったように、後継者を育てないといけないので、結局後継者が育つには全部できないとダメってことなんです。ある程度、今日はこの人はこの部分をやって、また別の人には昨日これをやったから今度はこの部分をしてもらうと言った感じで、みんなで回しながら、色々な仕事をできるような形にはしています。かなり手間もお金もかかるんですけどね。
もうちょっと町ぐるみで考えていかないといけないですよね。例えば、僕は熊野筆の「毛」の部分を作ってるんですけど、 筆の「軸」部分を作る人もいるので、そういう軸の職人さん達も高齢化しているので、町全体でやっていかないと、本当に熊野筆というものが続かなくなってしまいそうです。
・制作された筆を販売する時はどこに出されるんでしょうか。
うちは、「穂首(ほくび)」という毛の部分だけを製造して問屋さんの方に卸しています。問屋さんは、「軸」を軸屋さんの方から仕入れて、そこで合体して、熊野筆というネームが入って販売されていく流れです。 だから、僕のネームとかはほとんど入っていないんですよ。
・製造から販売まで熊野町内で完結しているんですね。
それをしないと熊野筆にならならない。町外に出す時には商品としての完成品です。ものによってはさらに厳しい伝産マークという伝統的工芸品の認証シールがあってそういうのが貼られたりもします。だから、町内で完結するためにはどの部分の仕事も無くなってはいけないんです。
・熊野町の好きな場所はどこかありますか。
そうですね、例えば山。熊野は山が多いですから、散歩で歩いている時の紅葉が綺麗だったりとか。
他にもいっぱいあるんでしょうけどね。それを発見していかないといけないなって思います。これから、ちょっとそういう場所を発掘して観光地化していきたいなと思うんですよ。一つ一つのスポットというよりも、熊野町全体をおすすめできるような場所にしていけたらいいですね。
・實森さんが熊野町でよく行くお店はありますか。
熊野で行くお店ですか。ご飯屋さんは同級生が営む「隠れ居肴家 和木 やわらぎ」というお店ですね。 そこにはよくお客さんを連れて行ったりしていますね。
・最後に、お仕事に関しての展望などお聞かせください。
今後はね、それこそ職人さんがいなくなるので、軸の部分もうちでできるようにしたいなと思っています。一部ですけどね。たくさん量を作る時はやっぱり軸屋さんが大量に作れるんですけど、 やっぱりちょっと独自なアイディア(軸にデザインするなど)を入れてとなると、本当に轆轤を回して削っていく轆轤士さんしかできないので、やっぱり細かいことはお願いできない。だから、1本からでもできるようなものを、自分のところでしたいなと思っています。そのための軸部屋を今作ってるところです。
ギャラリーでの展示やお仕事の今後の展開が楽しみですね。
どうもありがとうございました。
「熊野町つなぐプロジェクト」
広島市立大学「2023年度いちだい地域共創プロジェクト」採択事業 広島市立大学の学生や地域の方と一緒に、熊野に暮らす「人」や熊野で活躍する「人」にスポットを当て、その「人」の想いや取り組んでいることを通じて、地域の魅力を伝える情報発信を行っています。
・熊野町つなぐプロジェクトInstagram:https://www.instagram.com/kumano_tsunagu.p/?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA%3D%3D